チリ産養殖サーモンは、世界で最も多く生産されているサーモンですが、その生産の裏には大量の抗生物質が使用されているという衝撃的な事実があります。
国際海洋保護団体「Oceana」の調査によると、チリ産養殖サーモンの抗生物質使用量は、ノルウェー産のサーモンに比べて約5,600倍も多いのです。
具体的には、チリ産サーモンは1tあたり950gの抗生物質を使用しており、これは豚肉産業(172g/1t)よりもはるかに多い量です。1
なぜチリ産サーモンではこんなにも抗生物質が使われているのか
チリのサーモン養殖場では、高密度飼育が行われています。
つまり、狭いスペースにたくさんのサーモンを詰め込んで育てているのです。
この環境下では、病気が蔓延しやすくなります。
また、チリの養殖場は海流が複雑で海水温が不安定なため、病気の発生率が高まっています。
養殖業者はコスト削減を優先し、病気予防のために抗生物質を大量に使用しているのが現状です。
さらに、チリの養殖業者の中には、抗生物質の使用に関する規制が十分でないことを利用し、過剰な量の抗生物質を投与している場合もあります。
こうした無秩序な抗生物質の使用が、耐性菌の発生や環境汚染のリスクを高めています。
チリ政府は、この問題の解決に向けて、規制の強化や監視体制の整備に取り組んでいますが、養殖業者の意識改革や実効性のある対策が求められています。
抗生物質の大量使用が引き起こす問題
1. 耐性菌の発生
抗生物質を大量に使用し続けると、その抗生物質が効かない耐性菌が発生してしまいます。
これは、人間の医療現場でも大きな問題となっています。
養殖場で発生した耐性菌が、私たち人間にも影響を及ぼす可能性もあります。
例えば、抗生物質耐性を持つ大腸菌や連鎖球菌などが、養殖場から海洋環境中に放出され、最終的に人間に感染するリスクがあります。
2. 抗生物質の残留
投与された抗生物質の一部は、サーモンの体内に残留してしまいます。
私たちがそのサーモンを食べると、知らず知らずのうちに抗生物質を摂取してしまうことになります。
抗生物質を長期的に摂取し続けると、私たちの体内の耐性菌も増えてしまう恐れがあります。
さらに、抗生物質の残留は、アレルギー反応を引き起こしたり、腸内細菌叢のバランスを崩したりするなど、健康に悪影響を及ぼす可能性があります。
3. 環境への影響
抗生物質は、排水や廃棄物とともに環境中に放出され、環境汚染の原因になる可能性があります。
養殖場から海洋環境中に放出された抗生物質は、水生生物に影響を与え、生態系のバランスを崩す恐れがあります。
また、抗生物質が土壌中に蓄積すると、土壌微生物の活動が阻害され、農作物の生育に悪影響を及ぼすことも懸念されています。
一方、国産サーモンやノルウェーサーモンの抗生物質使用量は、チリ産サーモンに比べて約10分の1と少なく、より安全性が高いと言えます。
国産サーモンの抗生物質使用量は、1tあたり100g程度とされており、ノルウェー産サーモンも同程度かそれ以下です。
これは、日本やノルウェーの養殖場では海流や海水温が安定しており、病気の発生率が低いためです。
日本では、養殖場の管理に関する法律や規制が整備されており、抗生物質の使用は厳しく制限されています。
また、養殖業者の多くが、抗生物質に頼らない養殖方法を導入し、魚の健康管理に力を入れています。
ノルウェーでは、1980年代から養殖業者と政府が協力して、抗生物質の使用を減らす取り組みを進めてきました。
その結果、ノルウェー産サーモンの抗生物質使用量は、1987年の48トンから2020年にはわずか0.17トンにまで減少しました。2
ノルウェーの養殖業者は、ワクチンの開発と活用に力を入れ、病気の予防に成功しています。
また、養殖場の環境を改善し、魚のストレスを減らすことで、病気の発生を抑えています。
こうした取り組みが、抗生物質の使用量削減につながっているのです。
さらに、養殖業者の意識や取り組みの向上も、抗生物質使用量の減少につながっています。
日本やノルウェーの養殖業者は、抗生物質に頼らない持続可能な養殖方法を追求し、消費者の信頼に応えるべく、安全で高品質なサーモンの生産に努めています。
日本やノルウェーの事例は、適切な管理と技術革新によって、抗生物質の使用を大幅に減らすことが可能であることを示しています。
今後、チリを含む他の養殖国でも、こうした取り組みが広がることが期待されます。
消費者も、安全性の高い国産サーモンやノルウェー産サーモンを選ぶことで、持続可能な養殖業を支援し、抗生物質の使用量削減に貢献することができるでしょう。
抗生物質を使わないサーモン養殖の取り組み
ノルウェーでは、養殖環境を改善し、ワクチンの活用などで病気の発生を防ぐ取り組みが功を奏し、抗生物質の使用量を最小限に抑える努力が続けられています。
日本の各地でも、ご当地サーモンの開発・生産が盛んになっています。
これらのサーモンは、地域の特色を活かした飼育方法や餌を用いており、抗生物質の使用量が少なく、安全でおいしいサーモンとして人気があります。
日本で代表的なご当地サーモンとしては、佐渡サーモン(新潟県佐渡島)、海峡サーモン(青森県)、奥入瀬サーモン(青森県)、三陸サーモン(岩手県)、飛騨サーモン(岐阜県)、鳴門サーモン(徳島県)などがあります。
まとめ
チリ産養殖サーモンの抗生物質まみれという問題は、私たち消費者の健康に直結する重大な問題です。
安さだけを求めるのではなく、産地や養殖方法にも目を向けることが大切です。
抗生物質の使用を最小限に抑え、持続可能な養殖を行っている国から輸入されたサーモンや、国内のご当地サーモンを選ぶことが、私たちの健康を守ることにつながるでしょう。
サーモンを買うときは、ぜひ産地や養殖方法にも注目してみてください。
賢い選択をすることで、より健康的でサステナブルな食生活に貢献しましょう。
Q&A
Q1:抗生物質を多用しているのはチリ産サーモンだけ?
A1:チリ産以外にも、養殖マグロや養殖ブリの抗生物質使用量が多いケースがあります。
ただし、サーモンほど大量に使用されているケースは多くありません。
近年は養殖業者の意識向上や政府の規制強化により、養殖魚の抗生物質使用量は減少傾向にあります。
Q2:抗生物質の使用量を減らすにはどうすればいい?
A2:養殖業者の意識と行動の変化、政府による規制の強化、第三者機関の認証制度の活用などが重要です。
消費者は、抗生物質使用量の少ないサーモンを選ぶことで、これらの取り組みを後押しすることができます。
Q3:国産サーモンは安全?
A3:国産サーモンの多くは、抗生物質の使用量が少なく、安全性が高いとされています。
ただし、養殖場によって差があるので、産地や養殖方法を確認することをおすすめします。
Q4:ノルウェー産サーモンが安全な理由は?
A4:ノルウェーの養殖場は、海流や海水温が安定しているため、病気の発生率が低く、抗生物質の使用量を抑えることができます。
また、養殖業者の意識や取り組みの向上も、抗生物質使用量の減少につながっています。
Q5:チリ産サーモンを食べても大丈夫?
A5:チリ産サーモンに含まれる抗生物質の量は、人体に影響を及ぼすレベルではないとされています。
ただし、長期的に摂取し続けることで、耐性菌が増加する恐れがあります。
安全性の高いサーモンを選ぶことをおすすめします。
Q6:養殖サーモンと天然サーモンではどちらが安全?
A6:養殖サーモンも天然サーモンも、適切に管理されていれば安全です。
ただし、天然サーモンは、海の環境によって寄生虫などのリスクがあるため、十分に加熱して食べる必要があります。
一方、養殖サーモンは、抗生物質の使用量が気になるところです。
産地や養殖方法を確認し、安全性の高いものを選ぶことが大切です。
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